営業コラム Vol.003 「ビジネスとしての“アイスブレイク”を活用し営業の主導権を握る」

今回は、営業の駆け引きには欠かせない「アイスブレイク」についてお話しします。

アイスブレイクは必要ない(すぐに本題に入りたい)、という人もいるでしょう。
考え方は人それぞれであるとは思いますが、アイスブレイクの目的・意義について、改めて考える機会にして頂ければと思います
「アイスブレイクのやり方が分からない」と言う人は、意義・目的に加えて、やり方をお伝えしますのでご参考にしてください。

初回営業では、訪問先の相手と初めてコミュニケーションをとることになります。
お互いに緊張状態にあるはずで、最初の壁を突破する上でアイスブレイクは非常に有効な手段だと考えています。

2回目以降の営業でも、これから始まるビジネスミーティング(商談)をスムーズにするために、アイスブレイクは大変有効と私は考えています。

営業におけるアイスブレイクは、いくつかポイントがあります。今回はアイスブレイクを実施する目的とどのような効果があるのか、実際にアイスブレイクをうまく使いこなすためのコツを紹介します。

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アイスブレイクの意味と意義

アイスブレイクとは一言でまとめると、その場の緊張をほぐし、場を和ませるためのコミュニケーションテクニックです。
営業(商談)においても本質的な意味は変わりませんが、フリートークや雑談をするというよりは、その先の商談、成約へ繋げるための手段(アイドリング)として活用すべきでしょう

相手とのコミュニケーション、特に営業をはじめとする交渉ごとにおいては、理論と感情の駆け引きが重要です。「理論を用いて感情に訴える」のです。大抵の場合、最後は感情の部分で折り合いをつけます

私もこれまでに、「良いものだと思うけど、なんとなく気に食わないから契約しないよ」という主旨の断り文句を言われたことがありました。体感ですが、3割くらいの確率でこういった終わり方をすることもあります。

そんなことあるの?と思われるかもしれませんが、よく考えてみてください。知らない人がいきなりあなたの会社へ押しかけてきて、「うちはこんな商品を売っています」、「あなたにとってすごくメリットがありますよ」、「今決めればサービスしますよ」、「絶対に後悔させません!」などと捲し立ててきたら、どう感じるでしょう?

まず商品云々の前に、「この人怪しいな・・・」と思うはずです。そして、その後はどのような説明を受けても怪しいな、が先行してしまうでしょう。

このように、相手のことを知りもせずにとにかく自社の会社案内や商品の話ばかりしてしまう営業マンは一定数います

自分を知ってもらうには、それと同じくらい相手を知ることも大切です。そのためのコミュニケーションとして、アイスブレイクは有効な手段なのです。
相手にまず興味関心を持ってもらうことで、その後の商談のイニシアチブも取りやすくなります

もちろん、アイスブレイクを必ずやらなければいけないわけではありません。アイスブレイクなどなくとも、相手の懐に入り、成約に繋げられる営業マンもいます。
ただし、そういった人をよく観察してみると、結局は商談の中でさりげないアイスブレイクが散りばめられていたりするものです。

アイスブレイクという営業スキルをひとつ持っておくと、営業マンとしての幅も広がるでしょう。

 

アイスブレイクの目的と効果

ここからは営業においてアイスブレイクを行う目的と効果について解説していきます。

01.相手の緊張を解く

営業に限らず、初めての人に会うというのは多少なりともお互いに緊張するものでしょう。
初回訪問の場合、営業を受ける側は、どんな人が来るのだろう、どんなものを売ってくるのだろう、と身構えていることが多いです。

緊張した状態で話を進めても、相手に重要な情報というのは入りづらいです。
人間は、緊張状態より自然体でいる方が集中しやすいもの。まずは話を聞いてもらうために自然体になれる状況にすることが大切です。

02.相手の人間性を確認する

商談相手の人間性を見るには、アイスブレイクが非常に効果的です。なぜなら、商談に入ると「ビジネス」という意識が強くなり、ビジネスライクな対応をされる可能性が高いからです。

営業とは一見関係ない話を振ることで、相手がどのような人かおおよそ知ることができます。
例えば、どのような話題でもフレンドリーに反応する人であれば、少し攻めた商談をしてみてもいいかもしれません。
一方で、アイスブレイクを始めたら、早く本題に入ってほしいという反応や表情をする人もいます。そういった人は余計な話をあれこれするよりも、先に要点を伝えた方がかえって好印象を与えられる可能性があります。

その後の商談の進め方を考える上でも、まず相手を知ることは大切なプロセスといえるでしょう。
相手の個性に合わせてこちらの情報提供の量や質をフレキシブルに対応できる営業マンの方が、それができない営業マンよりも成果が上がりやすいことは、議論を待たないことでしょう。

03.こちらの人間性を知ってもらう

相手だけでなく、こちらの人間性を知ってもらうためにもアイスブレイクが効果的です。
序盤でお伝えしたように、いきなりかつ一方的に自己紹介や商品紹介をしてしまうと、ただでさえ身構えられているのに、より怪しまれてしまいます。

一見、商談に関係ない話をすることで、なんだかこの人は話しやすいな、相談しやすいな、と思ってもらえれば、その後の商談でのイニシアチブを取れる可能性も高まります。

気をつけたいのが、素のあなたを知ってもらう必要はないということあくまで最終ゴールは成約です。過剰に自分を見せすぎるのではなく、営業マンとして話しやすい、信頼しやすい、頼りがいがありそうな人だと思われるような演出を意識してみましょう。

04.精神的に余裕のある営業マンという意識付け

これは「03. こちらの人間性を知ってもらう」に近しいポイントになります。
いきなり自己紹介や商品紹介をすると、怪しまれるだけでなく、必死感が出てしまいます。

相手が興味を持ちそうな話題を事前に用意しておき、相手の会社のことや業界のことなど、自然体で話せる話題を振ってみましょう。
この人は話題も豊富で博識だ、なんだか頼り甲斐がありそうだな、と思ってもらえるよう演出するのです。そこまで相手の感情を引き付けられると、相手も心を開いたり、本音を聞けるようになります。

05.相手の口を開いてもらう

人間、長い間じっとしていると、全身の筋肉が硬直して動きづらくなります。運動前にストレッチをするのは、そういった状態を改善し、身体機能の向上や怪我防止を目的としていますよね。

喋る時も同じです。声を出すには声帯という筋肉を使うわけですから、ずっと黙っているといざ自分の番になった時、話しづらくなります。
ずっとこちらが喋っていると、こちらの説明に相手が疑問や懸念を感じたときに、相手が話すタイミングを逃してしまうことが良くあります。
そうなると、不安や不満が心に残ってしまい、その後のこちらの説明に集中できなくなります。それがクロージングの段階で芽を出して、自身では商談が上手く行った(上手に説明できた)と思っていながら、相手から理由の分からない断りを受けることになります。

定期的に相手にも発言を促し、喉のストレッチをしてもらうことで、意見や質問をすることへの準備運動をしてもらうのです。

最初にお互いに話をすることで、相手にとって心のストレッチにもなります。身体と心の緊張がほぐれてくるので、商談に入った際、疑問や懸念をその場で口にしやすくなります。
相手の不安・懸念・疑問は、商談の早い段階で拾い上げるべきです。そのためには、相手に発言の機会を与える雰囲気づくりが大事です。

06.相手の本音が聞けることもある

頻繁に起きるケースではありませんが、上手くアイスブレイクが成立すると、商談に入る前段階で、相手から「実はこういうことで悩んでます」と話してくれることもあります。(私の体感としてこのパターンになるのは1〜2割くらいの確率です。)

どういう話の流れで本音を聞き出せるかというのは、正直相手次第な部分もあります。こちらから話すだけでなく、質問をしてみることも有効的です。
今話題になっている業界の話をあえて聞いてみる、自分で得た情報を相手にも共有してみる、など、要はあらゆる手数を打ってみて、相手に信頼してもらうことが大切ではないでしょうか。

アイスブレイク時は相手を観察する

商談に入ると、資料を凝視したり、PCやノートでメモを取ることが増え、つい相手を見なくなりがちです。
一方でアイスブレイクというのは、相手のみに集中できる唯一の時間なのです。たった3分や5分だったとしても、このコミュニケーションは非常に重要です。

お互いの人間性を知ることが出来る貴重な時間を省いてしまうと、ビジネスの話だけに集約されてしまい、なんとなくお互いに探り合ったまま終わってしまうこともあります。
例えうまくアイスブレイクができなかったとしても、商談前に相手と目を合わせて一言二言話すことは意識して取り入れてみましょう。

 

アイスブレイクのための事前準備

営業におけるアイスブレイクは、ただ雑談をすればいいというわけではありません。
相手に心を開いてもらいながら商談のイニシアチブを取るには、雑談と見せかけて目的のある話をする必要があります

そのために必要なのが、事前準備です。では、具体的にどのような準備をするといいのか、私の経験をもとにお伝えします。
参考にしていただきご自身のやりやすい方法で取り組んでみましょう。

まずは「地元・身内ネタ」から

今ではこうしてアイスブレイクについてノウハウをお伝えできるようになりましたが、もちろん私もいきなりできるようになったわけではありません。
アイスブレイクの話題で大切なのは、「相手にとって身近な話題」を振ること。そして、身近な話題にもレベルがあります。

私が最初に取り組んだのは、相手にとって身近な「地元・身内ネタ」を集めることでした。

地元ネタは、訪問先の最寄駅を降りてから訪問先に到着するまでにある、飲食店や面白いビルなどをよく観察するのです。あの飲食店は個人店のようだけど美味しいのかな、こっちのビルはずいぶん古いデザインだけど昔からある建物なのかな、など、少し気にしてみると案外思いつくものです。
私は時間がある時、あえて早めに最寄駅へ到着して周辺をよく歩き回っていました。

一方で、場所によっては話題が見つからないこともあるでしょう。そういった時は、訪問先のオフィスに入ってから会議室に通されるまでを観察してみます。これが身内ネタです。

例えば、受付の方の対応が良かった、すれ違った社員の挨拶が元気だった、珍しいフリースペースがあった、など、ちょっとしたことを頭に入れておき、商談前にさりげなくそのことを伝えるのです。
自社のことを褒められて嫌な気持ちになることはそうそうないでしょう。

また、「社員の方の挨拶が元気で素敵ですね、そういった教育はどのようにやられているのですか?」というような質問もできますね。話が発展して、うまく相手のビジネスに関する本音を引き出せるかもしれません。

訪問先周辺のネタが見つからなかった、訪問先でも話題にできそうなものがない、そうなったら、会議室に置いてあるものを探してみましょう。本、写真、置き物、絵画や掛け軸、周辺機器、椅子、テーブルなど・・・
私も話を始めるきっかけが見つからない時は、何か面白いものがないかよく会議室の中を見回していました。

慣れるまでは、時事ネタや業界の最新情報を必死に集めるよりも、相手の環境にとって身近な話題を集めた方が、自然なコミュニケーションを生み出しやすいです

業界の時事ネタも押さえておく

やはり業界の時事ネタを話せる方が、営業マンとしても魅力的に感じますし、信頼されやすいでしょう。
さらに、商談前のアイスブレイクで盛り上がれたら文句なしです。相手がビジネスの姿勢に入りきらない状態で業界の時事ネタに切り込めると、思わぬ本音が聞ける可能性もあります。

私は毎朝日経新聞の全ページに目を通し、ビジネスの情報収集を行っています。最近では新聞以外の手段でも情報収集はできますので、ご自身がやりやすい方法で取り組むといいでしょう。
特にこだわりがないのであれば、新聞からの情報収集はおすすめです。

特段興味がない記事は本文を読まず、見出しを見るだけでもいいと思います。私は日経新聞の全ページに目を通していると言いましたが、本文の全文を読んでいる記事は多くても4~5件と思います。ただ、できるだけ多くの見出しは見るようにしています。
「●●社の業績が前年比で20%上昇」のような見出しを見るだけでも、その業界のネタになります。

気合を入れたい商談の場合には、事前に同業の上場企業の「有価証券報告書」を見ておくこともあります。その業界のトップランナーの経営方針や課題を知っておくと、これもアイスブレイクの話題に使えます。
例えば、飲食店の営業に行く際には、ゼンショーホールディングスの有価証券報告書を読んでおく、などのようなことです。

「地元・身内ネタ」、「業界の時事ネタ」この2点をおさえておけば、意識せずとも自然なアイスブレイクができるようになります。どちらかに偏って話すというよりは、状況に応じて使い分けられるとより理想的なアイスブレイクができるでしょう

 

まとめ

営業マンやマネージャーの育成支援を行っていると、支援先の営業マンから「アイスブレイクってやった方がいいですか?」とよく聞かれます。答えは「絶対にYes」です。

アイスブレイクは、商談の中でもほんの数分のやりとりなので、重要視している人は少ないかもしれません。ですが、紐解いてみると、成約率を高める要素がたくさん詰まっており、やる価値は大いにあります

また、「アイスブレイクもちゃんとやった方がいいと上司に言われたが、何から手をつけたらいいのかわかりません」という質問もよくいただきます。
アイスブレイクの重要性はわかっているけれどどうやって身につけたら良いかわからない方向けに、これまで私が取り組んできたことを言語化・体系化してみました。
同じような状況で困っている営業マンに役立てば幸いです。

あくまでも重要なのは、アイスブレイクが全てではない、ということです。アイスブレイクは成約率を高めるための手段のひとつであって、アイスブレイクを完結することは目的ではありません。

売れる営業マン(つまり、魅力的かつ信頼される営業マン)に成長するためのステップのひとつと捉え、挑戦してみましょう。

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